地中海を越えて

生活記録.自己表現練習.執筆リハビリ

雑記_黒百合ハーバリウム

夜は魔物が住んでいるからね。

もしかしたらそれは、彼の口癖なのかもしれない。

 

 

真夜中は、静かだから苦手。

気がづくと沢山のことを考えている。

主に彼のことを。

絡めた指から伝わる温もり。

見上げた横顔の眩しさ。

時折見せる笑顔の幼さ。

心地よく感じてしまう雑踏。

ふと見上げた空の美しさ、そんなことを。

いっそ全てを摘んでしまいたい。

きっと素敵なハーバリウムが出来るから。

そう思ってしまうほどの、不可侵な瞬間のことを。

 

 

瞼を閉じる。

時計の秒針はもう、私を繋ぎ止めることは出来ない。

瞳を閉じて相手を描くことが出来るなら、それだけでいい。

そう、あの歌手は歌っていたけれど。

半分正解、半分不正解といったところね。

もう少しだけ、強かでいられたらいいのに。

 

 

こんなときは、彼の声を聴きたくなる。

 

夜は魔物が住んでいるからね。

心配しなくても居なくならないから。

安心して眠っていいんだよ。

大丈夫だから、ね。

 

 

こんな期待なんて、するだけ無駄なのに。

私は今夜も、彼で安心を得ようとしている。

ありきたりな言葉を求めている。

全く呆れる、呆れてしまう。

少しだけ口角を上げてラジオを流した。

深夜のラジオ番組は、勇者の酒場みたいね。

 

 

夜は魔物が住んでいるからね。

全部魔物のせいなんだ。

その魔物は、僕らみたいな人間を好むけれど。

大丈夫だよ。

僕は勇者でもあるからね。

......何を心配しているの。

君の魔物に、僕が負けるとでも?

分かったなら、ほら、目を瞑って。

心配しなくても居なくならないから。

安心して眠っていいんだよ。

大丈夫だから、ね。

 

 

吸えもしない煙草に火をつけた。

ラジオ番組の司会者は、今夜も視聴者の孤独を昇華する。

魔物の巣窟。

勇者の酒場。

勇者が勝つためには空瓶と流動パラフィンが必要ね。

魔物の正体はきっと黒百合だから。